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太宰 治
 
「人間失格」
 

「弱虫は、幸福をさえおそれるものです。綿で怪我をするんです。幸福に傷つけられる事もあるんです。」(『人間失格』より)

 

 『人間失格』という作品は、そのタイトルから重々しい、堅苦しいような印象を受けるかもしれません。私もそうでした。どんな内容なのか身構えて…少し拍子抜けしてしまったのは確かです。勿論、内容は真面目ですし、重い内容も含みますけれど…。ですが、ここに描かれているのは、一人の人間の人生であり、それは”小説作品”という遠い世界の話ではなく、とても身近に感ぜられるものでした。主人公の愉しみも、懊悩も、悲しみも、それらを身に持って、痛感できる――つまり、強く共感できた、というわけです。痛いほどに、理解できたのです。それは私が主人公と似たような環境にあるだとか、性格が似ていたりだとか、そういうわけではありません。主人公は私とは全く違う環境で生き、違う考え方をして生きた人でした。それでも、とてもよく理解できたのです。主人公の生き方も考え方も。そしてこの”主人公”は”私”だと、そう感じたのです。

 主人公の人生は、きっと、誰にでも少なからず理解できるものだと思います。でも、普段私たちは、それを考えないで生きている。意識せず生きている。でも主人公はそれが出来ない人だった。考えずにはいられなかった。だから臆病になって――幸福さえおそれてしまった。そうして”自分”というものを押し殺して生きる道を選んだ――。

 主人公は物語の最後の方で、自分という人間に「失格」の判定を下します。でも私はこの主人公を誰よりも、私よりも、ずっと人間らしいと思うのです。人間として生きようともがき苦しんだ人だったから。誰よりも人間であろうとした、そんな彼は、誰よりも本物の人間なのだと、そう思うのです。

 

 最高傑作と言われるに相応しい、素晴らしい作品だと思います。ですが、そう思わない人もいるでしょう。この作品はそういう作品です。読む人によって解釈も感じることも変わってくる作品。だから、多くの人に読んでほしいです。

 

 

 

 

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